懲戒権を行使するには?
- Kyコンサルタント
- 2017年11月12日
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労契法第15条に定める「懲戒」がある。
これは、使用者が労働者を懲戒することができる場合に於いて、「当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及びその態様、その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は無効とする。」
と言うものである。
就業規則では、労基法第89条(作成及び届出の義務)において、懲戒の種類及び事由について就業規則に定めることになっている。
一般的には、企業(会社)における企業秩序の維持を確保する為に、必要な諸事項を就業規則に定め、規則をもって企業内の秩序を規律している。
労働者は、企業に雇用されることによって、会社への労働提供義務を負うとともに、これに付随して企業秩序の遵守義務等の義務も負う事になる。
企業秩序違反行為をすれば、就業規則に定める規定(懲戒規定や制裁の事項)を準用する事となるが、労基法で「就業規則」と言う事項を見た場合、10人以下の事業場の場合は、就業規則の作成義務がない為、就業規則を作成していない場合が多い。よって懲戒規定も当然定めていない。(10人以下の事業場でも就業規則を作成し運用している会社もあるが、現実は少ない)
ここで問題となるのが、就業規則を定めていない場合は、懲戒権を行使できないのか?
と言うことになる。
一般的に見れば、懲戒権を定めていなければ、行使できないと考えるのが通常であるが、労契法第15条では、使用者が労働者を懲戒する事ができる場合としての条件を定めてる。
また、裁判事例を見た場合、例えば、東京高裁は、特別の制裁罰としての懲戒解雇を実施する為に、その事由と手段とを、労働協約・就業規則・個別の労働契約などにおいて、具体的に定めることが必要だとし、懲戒権の根拠が「就業規則に限定されない」事を明示している。(洋書センター事件)
言い換えれば、就業規則に固執せず、また労働協約や個別の労働契約において具体的に定めることが重要であり、定めることが必要であるが、定めていない場合は、労基法第20条1項の但し書き後段「労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合」を準用し、解雇できる。と解される。
厚生労働省(平成17年9月15日)付け「今後の労働契約法制のあり方に関する研究会」の報告書でも「就業規則の作成義務のない小規模事業場においても、個別の労働契約等で「懲戒の根拠が合意されていれば、使用者は懲戒権を行使し得る」ことには「問題はない」との解釈を示している。
まとめると、懲戒権を行使するには、一般的には就業規則への定めが必要とされているが、「就業規則の定め」の適用のない小規模事業場(常時雇用する労働者が10名未満の事業場)は、労契法第15条を準用するか、個別の労働契約内での合意により、懲戒権を行使する事ができる。
また、特別な事情の場合は、労基法第20条1項の但し書き後段を準用することも場合によって可能。ただし、労契法15条も労基法20条も懲戒権の濫用を防止する観点から、その事案に対して「客観的・合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められる事、又、その行為の性質及び態様、その他の事情を考慮しても懲戒権を行使し得るものである」ことに注意する必要がある。と言うことになる。
就業規則の定めのない会社は、できるならば、個別の労働契約を締結する場合は、契約書上に於いて「懲戒規定」を定めた上で、労働契約上の企業秩序の遵守と、それに反した場合の懲戒規定についての説明を行い、「労使間で合意」しておく事で、後のトラブルを防止するとともに、会社においての「懲戒権の範囲」を示して置く事をおすすめしたい。
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